秘訣は抽象名詞
知的な話し方のヒントをお伝えします。
それは抽象名詞の使用です。
日本では抽象的=悪という風潮があるようです。
そして具体的と言えば分かりやすさの象徴として考えられています。
小学校の先生が児童の作文を褒める際には「具体的に」が代表的な視点のようです。
あとは感情を込めてでしょうか。
ただ、具体性と感情はどちらも疑問が残ります。
子どもは徐々に抽象概念を使えるようにならないといけないからです。
厳密には抽象名詞を使いこなせないといけません。
抽象名詞とは日本で考えられている抽象的な表現とは違います。
抽象絵画のように分かりにくい話とは、非論理的と言うべきでしょう。
日本語は具象的な表現を多用します。
具象度が高い表現とは目に見える動きです。
抽象名詞と抽象的な表現は違う
抽象名詞の使用がなぜ賢く表現できるかをお話ししましょう。
以下の4つの文をご覧ください。
1.たくさんの人がこの商品を買っています。
2.多くの人たちによってこの商品が購入されています。
3.この商品は多くの購入意欲をかき立てています。
4.この商品の売り上げが増加しています。
だんだんと抽象度が上がっています。
まず、動きに注目してください。
「買う」という具象的な動詞が、名詞である購入に変わるだけで少し雰囲気が変わりました。
でも、この動きの主語(動作主)は人です。
自分を含めて人が主語だとどうしても具象度は高まりません。
受動態になっただけです。
そこで、主語を無生物に変えるとどうでしょう?
「この商品」が主語となると、目に見える動きから、頭の中での理解に変わります。
ただ、「かき立てる」が、まだ動きを含んでいます。
これは擬人法と呼ばれ、物を人のように例える手法です。
修辞技法としては悪くないのですが、抽象度という点ではまだ上げる余地があります。
そして4番目は抽象度を上げて、客観性が加わっています。
そして、こちらの方が分かりやすいし、知性が感じられます。
この秘密は、「具象度が高い=目に見えるからイメージしやすい」という短絡的な構造ではなく、イメージは解釈する人次第という欠点が存在するからです。
聞いている人が、頭の中で場所も時間も登場人物もバラバラの想像をする過程が加わってしまうため、実は話し手とは違う曖昧な解釈になりがちなのです。
反対に、抽象度が高いとその無駄な過程がないため、単語と意味が直結しています。
そこに聞き手の解釈の誤差がほとんどないのですね。
単語=意味という、言わばデジタルの感覚です。
換言するなら、具象度の高い表現に依存するのは話の幼さにつながるのです。
そして感情移入など一切不要です。
ビジネスプレゼンテーションはお芝居とは違うからです。
日本にはびこる「具体的だから分かりやすい」という短絡的な考えをやめないといけません。
実は日本人が英語が苦手な理由はここにあります。
日本語で抽象名詞を使いこなせるようになると、日本語でも表現が多様になるだけでなく英語を学ぶことで生まれる相乗効果があります。
英語とパブリックスピーキングの相乗効果は別日にお話します。